ひと匙すくえばほろほろと、脆く崩れてしまう氷すい をゆっくりとくちに運ぶ。そんな彼女のももいろの頬に 淡いこもれ日が落ちていた。 しゃり、しゃり、しゃり。匙が氷を崩してゆく音と、 葉ずれの音が調和して、心地好く耳をくすぐる。穏やか すぎて、おそろしいくらいの八つ刻であった。 やわらかなまなざしがふいに向けられ、たべるか、と 視線だけで静かに問われた。無色のみつの、甘い香りが 漂って、それだけで充分だと首をふる。 ほんとうに、それだけでじゅうぶんだった。 弱い風に揺れる朝顔の気配を、背中に感じた。団扇を 扇ぐと、高いところで結った彼女の髪の毛がかすかに震 えた。たったこれだけの時間で満たされていく。 もうなにも要らなくて、ただこの時さえあればよいと 思う。今年の夏は例年より訪れが早いようであった。け れどその分、夏の一瞬一瞬を贅沢に楽しめるのならば。 しゃり。涼やかな音がして、またひと匙、霙のような 透明なかたまりが、唇のすきまに消えていった。 氷すい